

新思潮 No.145 2017年7月号より①
| 離れれば花のかたちに膨らんで | 伊藤 寿子 |
| 人間も自然もある一定の距離を置いて眺めた方が、見えないものが見えてきて、良いイメージを得られる場合がある。「花のかたちに膨らんで」の止揚感に、読む側の心も弾む。女性の秘めた情熱のようなものが、ゆったりとした気息に添うように伝わる。〈細川不凍〉 | |
| 表札を拭けば燕が飛んでくる | 古谷 恭一 |
| 何か願い事か祈りがあるのだろう。表札は家の顔で大切な場所である。そこを綺麗に拭けば燕と言う名の願い事や願望が飛んでくるというのだ。堂々と貫録のある作品と思った。〈姫乃彩愛〉 | |
| 紫陽花を切る雨色の服を着て | 月野しずく |
| 紫陽花と雨はよく符合する。六月の雨が好きな紫陽花だが、その紫陽花にこころを近づけるための雨色の服なのだ。この雨色の服というイメージの創出で、紫陽花に同化していく作者像が見えてくる。吉田州花の椿の句と同様に、花に同化しているのだ。日常の断片を取り出しては、作品に仕立てている。〈岡田俊介〉 | |
| うしろ指拾い集めて瑠璃の壺 | 佐々木彩乃 |
| 〝うしろ指をさされる〟ことは誰しもあるだろう。そのうしろ指を拾い集めて、美しい瑠璃の壺に入れるのだが、自分に向けられたうしろ指なら、ことさら美しく煌めく筈だ。自分に自信があるからこそのきらめきでもあるだろう。どこかにアイロニーを潜ませながら、瑠璃の壺の異様な光を想像させる。〈岡田俊介〉 | |
| なぎの海針をおとせば君の歌 | 福田 文音 |
| 鏡のような、とまではいかなくても凪の海は静かだ。その海面は針の一刺しでも、さざ波が立ち、広がるのだ。静けさの喩えに針を用いて、この小さなものにでも反応しそうな静けさを表現し、その針の波紋を〝君の歌〟のように聴いたのだ。針(鍼)の連想からこの君は福井陽雪を指しているのかもしれない。〈岡田俊介〉 | |
| 花ふぶき あゝ一篇が完結す | みとせりつ子 |
| 外観から内観へ、作者のまなざしがスムーズに移行することで、斯かる凜然とした作品が産まれた。桜の散り際の潔さに、美的感応しつつ、ナルシシズムをほど好く絡ませた抒情の表出がいい。きっと極上の一篇が、出来あがったことだろう。〈細川不凍〉 | |
| さくらもち戦士の果ての喉仏 | 吉見 恵子 |
| その春をさまよいつくせ 砂丘まで | 岡田 俊介 |
| 道一つ見えて月下のジャコメッティ | 杉山 夕祈 |
| 花の山腹ここよりわれら散りぢりに | 細川 不凍 |
| たましいは売らぬと躑躅の色合い | 元永 宜子 |
| 守るものあってたおやかなる背骨 | 野邊富優葉 |
| 点滴に若葉の雫もらい受け | 内藤 夢彦 |
| 烏賊の沽券黒いルージュの接吻 | 重田 和子 |
| 黒猫の何かまへたるおぼろ月 | 望月 幸子 |
| 眼を瞑るとき一面に卑怯者 | 新井 笑葉 |
| 立ち上がるまでの重さに母が居る | 岩崎眞里子 |
2017.7.20
























